株式会社コ・ラボの企業サイトブログ 「自社企画」へようこそ。ここでは株式会社コ・ラボのオリジナルブランド「NICELY」で扱うMilkomedaシリーズの誕生ストーリーを投稿しています。よければ第1章からお読みください。第2章では私が型紙設計士として仕事を始めていく様子を書いています。
いつか自分で、この問題を解決する下着を作ろう。そして、その時は自分の手で、誰かの元へ直接届けよう。
そんな色鮮やかな将来像を思い描きましたが、根拠は何もありませんでした。
下着がどのように設計され、どんな生地を使いどのようなミシンを使い、複雑な工程を経て完成するという現実を何一つ理解していません。
転職してまだ数日、そして、“素人”と呼ぶには、まだ早すぎた頃の私の理想像は…
絵に描いた餅、机上の空論でした。
そして、数日間の“座学”を経て、いよいよ実際の設計に触れることになります。
過去に商品化された実績のある型紙を実寸大で印刷し、その線のとおりに写し取るという研修でした。
造船や車の設計、工業の現場で使われるような特殊な半透明のフィルムを型紙に重ねて、それをカーブ尺という曲がった定規を当てて曲線の半径を割り出して、写しながら描いて行くという作業です。
題材はブラジャーだったと思います。
その後、ショーツ、ガードル、ボディスーツと沢山写し取りの研修をこなしました。そしてこの研修は「じゃあ、やっといて。できたら見せて」という、軽い感じの導入でした。
必要な道具を渡すから自分でやってみなさい。
こういう物でした。
傾向と対策は自分でやれというのです。ガタガタした線で写し取った私の初めての下着の設計(の写し)は見るも無残な出来栄えでしたが、私はこの設計における基礎訓練がとても役に立っていると思います。
その後、実際の設計はCADシステムというソフトウェアを使って行いますが、実寸大の型紙に直接触れる機会があったというのが非常大きな体験で、設計に携わるようになってから、大きな壁にぶつかることはあまりありませんでした。
まずは与えられた課題をこなす、ひたすらその作業が続きました。
下着の設計は、2次元の平面上で行います。けれど、完成するのは3次元の立体物です。
なので、2次元の平面上に置き直されたその曲線は、とても複雑で、実に多種多様な曲線が折り重なっています。
最初は何も訳が分からずとりあえず写し取りの作業を続けましたが、なるほど!これは角度設定と距離伝達の世界かもしれない。
その直感に行き着くまでそう時間はかかりませんでした。
その解釈は私を合格ラインに引き上げましたが、とはいえ、それはあくまで──ひとつの商品の、たったひとつのサイズに過ぎません。
例えばブラジャーであれば、C70サイズの描き写しです。
そしてブラジャーには他の衣類にはないサイズ管理体形があります。
アンダーバストとトップバストを別に管理しているので、Cカップだけでも何種類も、そして70サイズのブラジャーはいくつもあります。
理論上どこまでも広がります。ブラのC70サイズの写し取りに慣れたころ、次の課題はその型紙をもとに、他のサイズを設計していくこと──
この工程は「グレーディング」と呼ばれています。
ひとつのサイズを基準に、他のサイズへと展開していく
この「グレーディング」という作業は、正直、苦手でした。
基本的には、写し取るという形式で進めました。
けれど実際の現場では、これを自分で…? 計算して…?
ロジックを自分で組み立てるなんて、とても想像できなかったのです。
大きな壁にぶつかった感覚です。
きっと一般の皆様が型紙を見てパッと見てこれは何サイズです。と判別できないのと同じです。
しかも私は男性…自分で使う物でもないものではないし、これまでの人生経験でもブラジャーやガードルをまざまざと観察したことなんてありません。
自分のパンツを選ぶときでさえ、
「これいくら?うーん、もっと安いのでいいや」──
そんな感覚だった私です。
そこに流れている匠の意匠など意識せず暮らしています。
ここでの私の学びはものを作っている現場では誰かが頭をひねってエラー&トライを繰り返しているという実態でした。
お皿も、コップも、机も、建物も──
世の中の「かたちあるもの」には、必ず“誰かの設計”がある。
そのすべてに、一気に触れたような、そんな時期でした。
コメント