下着の歴史編

2章11話. 揺らぐ下着業界の成長

株式会社コ・ラボの企業サイトブログ「下着の歴史編」にようこそ。本ブログでは日本の婦人下着の歴史について学んでいます。

昭和40年(1965年)以降、下着の種類は増え、あらゆる人々の体と生活にフィットするようになりました。市場に送り出される商品は、新素材を使用し斬新なアイデアで常に顧客の消費欲求を掻き立てる事に成功し、昭和45年(1970年)まで下着業界の年間成長率は30%が常識となっています。しかしながら2021年現在の下着業界の中にいる私達から見れば、過去にとてつもない成長率を誇っていた業界であったとは考えも及びません。いつかどこかのタイミングで爆発的な成長にブレーキがかかり始めた訳です。今回は、好調だった下着業界の勢いが鈍化した様子を見ていきましょう。


昭和45年(1970年)までの日本全体の経済は成長率10%で順調に拡大し続けている。ところが同年、大阪万国博覧会(以下、万博)の開催中に徐々に景気が停滞し始める。翌年の昭和46年(1971年)にはお金の定義を根幹から変えたニクソンショック、昭和48年(1973年)には原油価格高騰が引き起こした混乱のオイルショック。景気を低迷させる出来事が次々と押し寄せ、実質のマイナス成長を記録したことによって日本の高度成長時代は終わりを告げる。下着業界は昭和40年(1965年)以降、不況知らずとされていた程好調であったのだが、万博の閉幕と同じ時期にあたる昭和45年(1970年)の9月以降、日本経済の動向にシンクロするように秋冬物が伸び悩み始める。以降昭和47年の春までの2年程下着の売れ行きが芳しくない状態が続き、これは下着業界史上、初めて体験する不況であったとされる。しかし不況という言葉が使われたものの、当時の下着業界の間では、これまでのような年間30%の成長率ではなく、10%前後の成長率で経営せざるを得ないと予想されている。不況の中にあっても10%の成長をしているという、現代の私達がイメージする不況とは大きく異なるが、業界で初めて訪れた不況による計画見直しは業界を揺るがす一大事であった。

昭和45年(1970)から昭和47年(1972)の2年間は、下着業界初の不況と日本全体の景気に相関関係が見て取れるが、翌昭和48年(1973年)以降は日本経済とは逆の方向へ推移する。日本経済がマイナス成長を記録するこの年、下着の主要なアイテムの卸売りは軒並みプラスになり、ブラジャーは前年4300万枚から約28%増の5500万枚、ショーツにおいては前年5485万枚から約26%増の6903万枚を記録している。ガードル、スリップ等の品目も卸売り枚数を伸ばし、以降も下着全般の成績は上がり続け、オイルショックによる影響は全く受けていないといってもよい。

日本に大きな傷跡を残すオイルショックの目立った出来事として、国民の消費が生活必需品に集まり買い占め行動によってトイレットペーパーの価格が3倍から4倍の値を付けても売り切れが続出している。砂糖、塩、しょうゆが店から消え、ガソリンの価格は日毎に高くなるという混乱に発展し、物価上昇率は23.2%を記録したという。このようにオイルショックは経済を低迷させるだけでなく、偏った消費に繋がり日本全体に不安が充満してゆくが、結果的に下着業界は運よく難を逃れることが出来た。実はここに問題が浮かび上がる。日本全体の景気と連動して低迷したかと思えば、オイルショックとは無縁という、不況と好況。これら一連の事実に関する理由を誰一人として明確に説明する事が出来なかったのである。また初めての不況も、元通りの成長に持ち直した事も下着自体のパフォーマンスが乱れた訳でもなければ、価格の大きな変動があった訳でもない。強いて理由をあげれば日本が不況に訪れた昭和45年からの2年間は買い控えの時期にあたり、その反動が2年後に集中したという見解に達している。

日本経済を他所にブラジャーの過去最大卸売り枚数の6000万枚を記録した昭和50年(1975年)を頂点に下着の需要は下がり年間5000万枚当たりで落ち着き始める。卸売りの枚数は一定の枚数で推移するが、金額を見ると昭和50年(1975年)以降伸び続けている。それでもこれは下着を作れば売れる時代の終焉であり、ここからは下着に当たっていた光が陰りはじめ、真価が問われる時代へ突入してゆく。

本ブログ下着の歴史も昭和の後半へ差し掛かってきた。プラス10%の成長率が不況とされた時代を実際に体験した方々から見れば、2020年の下着市場が前年比約-2.4%であり、10年連続のマイナス成長である事は目も当てられぬ事態であろう。過去の栄光も今となっては夢のまた夢。この頃に遡れるのであれば、下着業界に告知しなければならない。日本経済を襲うバブルが刻々と近づきそれが崩壊する事を。

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