下着の歴史編

1章5話. 誠に重なる下着の決戦

株式会社コ・ラボの企業サイトブログ「下着の歴史編」にようこそ。本ブログでは日本の婦人下着の歴史について学んでいます。

本ブログ1章では下着の黎明期にスポットを当てています。これまでの話で日本の洋装下着史の初期に登場した下着や事業者達を振り返りました。下着もおおよそ出揃い、製造・販売業者が顔を連ねた次に起こるのはシェア(市場占有率)の競争です。とりわけ昭和25年(1950年)以降、商売の規模を広げたい業者の戦略は百貨店攻略にありました。未だに配給物資が残る中、百貨店は戦後復興を象徴する商業施設となり、流通業界の頂点で輝きを放ち、バブル期までその地位を欲しいままにします。今回は商材を問わず販売業に関わる企業であれば「いずれは百貨店に」と思い描いた時代の中での下着業界を見ていきましょう。


昭和24年(1949年)に和江商事(現ワコール)は個人商店から株式会社になり、それまでの装身具卸売業から婦人下着の生産・販売を行う企業となった。自社でのブラジャー製造に取り掛かっていたが、依然として主な販売のルートは、地方の小売業、問屋などが中心であり、事業拡大という大きな命題は常に重くのしかかり、そんな状況での法人成りは将来的に百貨店との直接取引を取り付けるための第一歩であった。また、自社で開発したブラジャーの型紙を縫製工場が流用して他社が販売してしまうというトラブルにも見舞われ、全てを管理できる自社工場の設立と大きな企業への実現に向けて立派な社屋の必要性も強まった。翌昭和25年(1950年)には高島屋の京都四条河原町店の店舗拡張に伴う売り場増設の折、和江商事のブラジャーを置かせてくれるという話になり意気揚々と準備に取り掛かった。ところが売り場増設の数日前に納入できる業者が他に決まったという知らせが届く。なんと高島屋本店の推薦によって下着の納入業者は青星社(元青山商店)に決まったという…青星社といえば、和江商事よりも早くに装身具を扱い、設立時からのライバル会社だ、おまけに和江商事のブラジャーの型紙を使用してブラジャーを販売した会社は他ならぬ青星社なのだ。和江商事としては許せるわけがない。夜も深くなっていたが高島屋の仕入れ課長の自宅へ押しかけ問い詰めた。契約書を交わした訳ではないため、あくまでも納入業者の決定権は百貨店側にある。そもそも婦人下着は雑貨の一つとして扱われており、あくまでも主力は傘やハンドバッグとされ、他にも靴、文具、時計、家具など幅広く展開しており、下着の納入業者選定の優先度は低かった。とはいえ製品の準備は既に進めており、納入者としての自覚を持ち始めているため、すぐに引き下がる訳にはいかない。仕入れの課長を説得し翌日部長に会えることになった。部長に対しては和江の下着が如何に優れているかを説明し、実際に商品を確かめる事なく納入業者を決めるのは納得がいかないと熱弁をふるい、決定済の納入業者である青星社と売り場を賭けた1週間の試験販売期間を設けてもらうことが出来た。販売成績の良い方を納入業者に指名するという訳である。昭和25年10月1日から増設された売り場にはケースが2台設置され、一方には青星社、もう一方には和江商事が製品を並べ、張り詰めた緊張感の中、長く短い1週間を駆け抜けた。結果は青星社に5倍程の差を付けた和江商事の圧勝となり、晴れて高島屋京都店の下着納入業者に選定され、この出来事は「四条河原の決戦」と呼ばれ下着業界のブレイクスルーとして語り継がれている。その2か月後には高島屋大阪本店で京都店と同じく、青星社と売り場を掛けた一騎打ちを制し一気に売り上げを伸ばした。翌年以降は西日本の百貨店との直接取引を開始し、「西日本の和江」と呼ばれるまでに成長を遂げ、その地位を確実なものにしてゆく、関東圏を除いては…

「四条河原の決戦」の頃の和江商事の社員は10名程度の規模ではあるが、いずれも非常に優秀だったことが和江商事発展の支えとなっている。また社長を含む社員の多くが滋賀県の八幡商業高校出身で若くして皆同じ学び舎にいたというのだから、さながら幕末の新撰組を思い浮かばせる。東京の道場、試衛館(しえいかん)では、新撰組局長を務める近藤勇、以下土方、沖田、長倉、斎藤などが共に青年期を過ごし、以後も志を共にしている。そしてその誰もが逸材であったという点も和江商事と重なるように思える。新撰組はその後、時代に飲まれ解散するが、和江商事はワコールとなり現在も下着業界のリーダーであり続けている。ちなみに新撰組で有名な「池田屋事件」があった三条木屋町の跡地と和江商事の「四条河原の決戦」の舞台である高島屋京都店は500m程の距離にある。いつか両者に想い馳せながら歩いてみたい、それまでに私達なりの決戦があるとすれば、勝者として立っていたい。

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