株式会社コ・ラボの企業サイトブログ「下着の歴史編」にようこそ。本ブログでは日本の婦人下着の歴史について学んでいます。
下着を購入する際に気になるのはどのような点でしょうか?自分の体にぴったりなサイズ感、時にアクティブに時にスタイリッシュに生活シーンを支えるパフォーマンス、今日という日を密かに演出するデザイン、こうして考えてみると下着に求められる内容は多岐に渡っていますね。ではカラーについてはいかがでしょうか?アウターやその他アイテムとの相性、本日のラッキーカラーなどもあるかもしれませんね。今では当たり前の要素になっていますが、下着が登場してからしばらくの間、色の選択は多くありませんでした。今回は下着にカラーリングが取り込まれた頃を見ていきましょう。
下着は白で良い、とされた時期は比較的長かった。下着が販売されるようになった昭和20年代から30年代に入るまでは、これまで見てきたように新しい下着の開発、事業者による売り場の争い、縫製工場を取り巻く環境の変化、実演販売を目的とした下着ショーの開催、海外企業の襲来など、内容の濃い出来事が立て続けに起こっている。混乱する環境の中で目覚ましい発展はするものの、作れば売れた時代であったため、どちらかといえば売る側の都合や実用的な機能面が優先され、使用者の内側に眠るおしゃれや美的感覚については感じ取る事が出来ていなかったのかもしれない。また下着は衣類の内側に隠れ日常的に人の目に触れる事は無い、そのため着用者の心理的・精神的楽しみや喜びを呼び起こし満足感を高めるはずのカラーリングについては必要ではないという認識が強く、生地を染めない場合に起こる黄変や、くすみの回避を目的として、主に白や薄ピンク、一部を黒に染め、あくまでもおしゃれのためではなく製品の耐久性の強化を目的とした実施に留まった。
そんな色の無い世界にカラーリングの必要性を説く人物が現れる。新聞記者を経て下着の世界に飛び込み、昭和30年(1955年)に発表した「スキャンティ」という履き込みの浅い小さなパンティ(ショーツ)で一躍その名を下着業界に轟かせた鴨居羊子である。「スキャンティ(scanty)」とは、「少量の」「乏しい」などの意味を表す英単語から命名されているのだが、センセーショナルでショッキングな鴨居羊子の下着は「スキャンダラスなパンティという言葉を短く表現したスキャンティ」という意味であると誤解に基づく噂が広まった程、話題となった。この「スキャンティ」は見た目に小さい特徴だけでなく、後身頃に各曜日の英単語を刺繍し、毎日違う色の下着を付けるという新たな提案を盛り込み七色で展開され、これが下着に対して美的感覚を追求するカラーリングが誕生した瞬間となる。それまでは、へそまで覆う深履きのパンティが一般的であったのに対し、現在でいうところのローライズ丈や穴の開いたデザインを発表し、鳥の羽をイメージしたランジェリーや肌の透ける素材での下着で、性の特徴を最大限引き出し、鴨居羊子自ら演出した下着ショーを通じて世に送り出した。
一方これは既存の事業者達の反発を受ける事となる。下着は女性の体を守る物であり、実用性に重きを置くことで生活を支える道具としての役割を果たせばよいのである。鮮やかな色が付いた下着など洋服から透けてしまい、見ているこちらが恥ずかしいし、おかしな目で見られるという事は女性の体を守る事と矛盾する。こういった論調で真逆の立場を貫いていた。
仮に鴨居羊子の提案した色の付いた下着が、注目を集めるために奇をてらっていたものであるならばこうした主張にも耳を傾ける余地はある、実際に下着を単にいやらしい方向へ向かわせる可能性も十分にあった。しかしながら、彼女の目指したのは実用衣料からの脱出であり、ビジネスとしての繁栄よりも深い所に潜む女性に対する哲学があったように思う。その一端を感じ取れる鴨居羊子自身のコメントを紹介したい。
『下着なんてものは、汗を吸いとれは良いのだ。白で十分じゃないか。通風性があるかね。これを着ると暖かいかね。洗濯して早く乾くかね。着易く、働きやすいかね。などなどと、際限もなく実用性、機能性にこだわった立場で下着を見ようとします。これは間違いなのです。下着にも、小説に求めたのと同じような面白さ、スリル、感情移入、心理的な興味などなどの物を求め、そして体験しようとする立場を忘れてはなりますまい。その下着を身に着けて実用性、機能性といった要素に満足すると同時に、着てその日を楽しみ、うきうきとし、深い心理的、美的喜びを体験しようとする深い立場を取ってほしいのです』(昭和41年 下着専門誌「ファンデーション・アーティクル」より引用)
カラー展開が豊富な鴨居羊子の下着は、影の存在から脱却し、その存在を堂々と主張する事で、下着自体の可能性を広げその地位を上へ上へと押し上げた。昭和30年代初期は下着ブームとされているが、鴨居羊子によって彩られた下着達もそのブームを支えた一つであり、女性の心理を追求する重要さは、現在の下着の豊富な色が示している。
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