№001【日本洋装下着の歴史】

書籍レビュー

株式会社コ・ラボの企業サイトの書籍レビューをご覧いただきましてありがとうございます。本カテゴリーでは、下着に関わる業務を行う中小企業という独自の視点で書籍レビューをします。下着に関係する書籍に留まらず色んな書籍を手に取り業務に役立てていきたい、そんな内容となっております。

記念すべき第1回目の書籍レビューは「日本洋装下着の歴史」です。

【基本情報】

タイトル:日本洋装下着の歴史 社団法人ボディファッション協会編

編 者:社団法人日本ボディファッション協会編集委員会

発行所:文化出版局

ページ数:166ページ

発行日:昭和62年6月1日 第1刷

定価:2,300円

通常書籍において一般的な仕組みは、その本を執筆した著者、そしてその本を出版する出版社(発行所)が中心であるのに対し、この書籍は編者と発行所という構成で出版されています。編者は「特定のジャンルに沿った文章を集める」という役割で、この書籍は上記編集委員会の方々によって取材されました。出版された昭和62年(1987年)は日本ボディファッション協会が社団法人となって10年という節目であり、同協会員の出資によって完成したそうです。本書で語られる下着の歴史は、日本人が洋装下着に出会ったであろう瞬間から本書が発行される昭和62年(1987年)までを取り上げ、最後は発行時点から見た近未来、つまり1988年以降の下着業界がどう変化しているのかという予想で幕を閉じます。

【内容紹介】

第一章 洋装文化と婦人下着の始まり

明治4年(1871年)~昭和20年(1945年)頃までの生活の中に垣間見える洋装下着について記されています。日本に洋装の文化が持ち込まれ、それまでの伝統的な着物を「和装」と呼ぶようになる歴史が刻まれた章です。未だ侍が存在した時代、洋装は限られた人達に許された物でした。そこから社会に出て働く女性達が洋装を取り入れながらもその内側は腰巻という不思議な様子、天災や火災を通じた下着の啓蒙、ブラジャーの誕生から、戦争による洋装の中断、そして敗戦までが描かれます。

第二章 婦人洋装下着の黎明期

本章では、昭和20年(1945年)から昭和35年(1960年)頃までを洋装下着の黎明期としてまとめられています。戦後から高度経済成長初期にあたるこの時期と並行して日本の洋装下着の普及が進んでいく様子が詳しく綴られます。洋装下着には欠かせないゴムについて研究開発から始まり、物資の不足していた戦後間もない頃に洋装下着の普及に尽力した企業の苦悩、努力、戦略を学び取る事が出来るでしょう。日本で洋装下着が普及し始めた頃、滋賀県、神奈川県は海外向け洋装下着の製造拠点として成長した時期があります。生産工場は大きくなり、技術は進歩するのですが、一筋縄ではいかない面も出てきます。

第三章 婦人洋装下着の近代史

昭和35年(1960年)から昭和62年(1987年)頃は日本の下着の黄金期とされています。魔法の繊維と言われた伸縮素材ポリウレタンの登場によって、現在私達が知っている下着の多くがこの時期に誕生しました。洋装は洋服に変わり、そして「服」へ、同じく洋装下着は「下着」へ進化を遂げます。人々の暮らしも変わり、多種多様な時代へ突入する中で下着業界も少なからずその影響を受けます。元々異なる種類の衣類とされていた、ファンデーションとランジェリーが互いに手を取り、日本ボディファッション協会が発足したのもこの頃となります。

第四章 ボディファッション業界の現在と近未来

巻末の6ページに記された短い章の中で、21世紀への展望が語られます。本書、発行時点での下着業界の問題は市場の減少にあり、以後の対応について述べられています。この頃の下着市場規模は7000億円と試算され、これまでに無かった商品の開発の必要性にも注目しています。下着の素材や技術をアウターに持ち込むことによって、下着のアウター化、アウターの下着化を想定し、事業規模は将来的に1兆7000億を超えると予想されています。

【まとめ】

本書は、溜まりに溜まった社内の資料の中に紛れ込んでおり、他の書類と同時に危うく処分しかける所で手が止まりました。弊社会長によれば、本書は協会員向けの出版物という事で増版や、一般の書店に並ぶことは恐らくないだろうとの事です。

下着業界の中で生きている者としては、今業界内で起こっている事や、自分が何をしているのかは把握できているはずです。あの会社の人は別の会社に転職したらしい、あの工場は事業を畳んだようだ、今期の新商品はかなり業績がいい。ゴシップを含め「今」の情報は溢れかえっています。しかしそれは広いキャンバスの一点に過ぎません。業界史を俯瞰して知る事で点と点を結ぶ線が見え始め、その延長線上の未来が見えるという実感を持たせてくれる本書は、専門家であれば一読の価値のある一冊です。

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