下着の歴史編

2章1話. 魔法の繊維

株式会社コ・ラボの企業サイトブログ「下着の歴史編」にようこそ。本ブログでは日本の婦人下着の歴史について学んでいます。

今回から第2章に入ります。本章では、下着の成長期とされる昭和34年(1959年)以降に焦点を当て、1章で登場した下着達が更なる進化を遂げる様子と下着業界全体の変遷を追いかけます。第1話では下着の進化のきっかけとなり、軽く、薄く、柔らかく体を支える奇跡の糸のお話です。それでは見ていきましょう。


昭和34年(1959年)繊維業界に革命が起こる。15年にわたる開発期間と日本円にして数十億円という莫大な費用を投じて、アメリカのデュポン社が伸縮性を持つポリウレタン繊維「ライクラ」の開発を成功させていた。その他フードリー社、アミケール社、アンソニアミル社などが後に続いてポリウレタン繊維の開発を行っている。この繊維は別名「スパンデックス」とも呼ばれ、左右に引っ張ると元の長さの4倍から7倍に伸び、放すと元の長さに戻る高い伸縮性を持ち、紡績と編立を経て生地にすれば、生地自体に大きな伸縮性を持たせる事ができる。これまでは天竺、リブ、フライス、テンビーなど、生地の編み方によって伸び縮みを確保していたが、それらを遥かに凌ぐポリウレタン繊維の伸縮は、ゴムのような弾性を持つ「魔法の繊維」と表現され、まさに繊維業界における技術革新であった。

ポリウレタン Polyurethane 繊維に限らず用途は多岐に渡る 略号は「PU」
スパンデックス Spandex 弾性ポリウレタンの総称 下着業界では最も多く使用される単語
ライクラ LYCRA 米、デュポン社のスパンデックス(弾性ポリウレタン)の商標名 略号は「LY」
エラスタン Elastin 主にEU圏で使用されるスパンデックス(弾性ポリウレタン)の名称 略号は「EA」

日本の繊維メーカーもこの魔法の繊維に注目し、その中でもいち早く開発を進めたのが東洋レーヨン(現、東レ株式会社)であった。昭和36年(1961年)にはデュポン社と提携する事で「ライクラ」を導入し、日本でのポリウレタン繊維の商標を「オペロン」とした。その後、デュポン社との合弁会社、東洋プロダクツ(現、東レ・オペロンテックス株式会社)を設立している。オペロンが登場した当初はワコール株式会社に積極的に採用され百貨店を中心に新商品を展開した。

次いで昭和38年(1963年)に当時、紡績会社として世界最大級の事業展開を誇る東洋紡績株式会社(現、東洋紡株式会社)が独自に「東洋紡エスパ」を、昭和39年(1964年)に富士紡績株式会社がアメリカのアミケール社と提携して「フジボウ・スパンテックス」を、同年に帝人株式会社がフードリー社と提携して「テイジン・ネオロン」をそれぞれ完成させポリウレタン繊維の商標を登録している。この3社は「スパンデックス」を合同ネームに使用してキャンペーンを展開し新素材の普及に取り組み、下着のメイン素材へと成長する。そしてこの3社の中でも、東洋紡績は、レナウン商事株式会社とアメリカのリリー・オブ・フランスとの合弁会社「株式会社レナウンエスパ」を設立、また富士紡績株式会社は片倉工業株式会社とアメリカのローソン社による合弁会社「片倉富士紡ローソン株式会社(後のカフラス株式会社)」を設立した。下着ブームが過熱する中で、魔法の繊維を作る企業は積極的に下着業界に進出し、生地だけでなく業界全体の構図にも変革をもたらした。スパンデックスを使用したストレッチ素材の代表としてはパワーネットが挙げられるが、これによって肌への密着度とコントロール性が格段に増し、下着の新時代を切り開く事となる。以降も伸縮素材への研究は続き、昭和42年(1967年)には日清紡績株式会社が「モビロン」を昭和46年(1971年)には旭化成株式会社が「旭化成スパンデックス」を開発しポリウレタン繊維を製造する各社の競合もより激しくなった。

ポリウレタン繊維を開発した日本企業

開発提携企業 各社商標 備考

東洋レーヨン

米、デュポン オペロン 主にワコールに採用される

東洋紡積

独自開発 東洋紡エスパ レナウンエスパを設立
富士紡績 米、アミケール フジボウスパンデックス 片倉富士紡ローソンを設立
帝人 米、フードリー ネオロン ポリエステル繊維を東洋レーヨンと共同開発

日清紡績

  モビロン  
旭化成   旭化成スパンデックス 1980年に商標「ロイカ」を取得

ポリウレタン繊維が登場する以前は、下着の伸縮をゴムに頼っていたのだが、この新繊維を使用すれば、まるで皮膚ように伸び縮みする商品を作る事が可能になり、更にはバストやヒップアップ機能、体へのフィット感を高める事で、下着は現代化への大きな一歩を踏み出す。その中でも特筆すべきはファンデーショングループで、コルセットは「ガードル」と呼ばれるようになり、オリジナルのコルセットはその後、ウエストを絞る役割をガードルに引き継ぎながらその影を薄め、愛好家による装身、または医療や運動補助へと用途を変化させてゆく。また、ブラジャーやショーツのような既存の下着に対しては優れた伸縮性を持たせるだけでなく、ブラジャー、ウエストニッパー、ガードルが一つになった「オールインワン」という新しい下着を生み出し、更に「ボディスーツ」へと進化していく。下着はこの魔法の繊維によって「第2の皮膚」と称されるようになった。

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